水晶振動子について

水晶振動子

1. 振動モードと切断方位

図1は、ATカット振動モードについて常温付近における周波数温度特性の1次温度係数が零となるカットアングルを模式的に表したものです。

図1 Z板人工水晶における切断方位

また、図2はATカット(基本波)の厚みすべり振動の振動形態を模式的に表したものです。

図2 振動形態(ATカットの基本波)

表1は、一般に使用されているATカットの対応周波数範囲、周波数定数(素板厚と周波数の関係)を示してあります。

表1 ATカットの周波数の関係


2. 切断方位と周波数温度特性

水晶の周波数温度特性は、その曲線の形状から2種類に分けられます。
1つは、3次曲線、もう1つは、2次曲線です。図3は、ATカットの特性例を示しています。
AT カット振動子は、常温付近での温度変化に対する周波数変化が少なく最も広く使用されています。

図3 ATカットの周波数温度特性例

3. 等価回路と各定数

水晶振動子は、共振周波数の近傍において、図4に示す等価回路として表すことが出来ます。
ここで、
R1 :等価直列抵抗(Series Resistance)
L1 :等価直列インダクタンス(Motional Inductance)
C1 :等価直列容量(Motional Capacitance)
C0 :並列容量(Shunt Capacitance)

図4 水晶振動子の等価回路

図5は、共振周波数の近傍における水晶振動子のアドミタンス円線図と、振動子の等価回路です。
各回路条件での等価回路の様子と周波数、抵抗などの関係がわかります。ここで、各定数は、次の関係があります。


図5 アドミタンス円線図

水晶発振回路

1. 基本的な発振回路例(基本波の場合)

図6に標準的な基本波発振回路を示します。

図6 標準的な基本波発振回路

発振が定常状態のときは、水晶のリアクタンスXe と回路側のリアクタンス-X 及び、 水晶のインピーダンスRe と回路側のインピーダンス(負性抵抗)-R との関係が次式を満足しています。

また、定常状態の回路を簡易的に表すと、図7の様になります。

図7 等価発振回路

安定な発振を確保するためには、回路側の負性抵抗‐R |>Re.であることが必要です。図7 を例にとりますと、回路側の負性抵抗‐R は、

で表されます。ここで、gm は発振段トランジスタの相互コンダクタンス、Ω ( = 2π ・ f ) は、発振角周波数です。

2. 負荷容量と周波数

直列共振周波数をfr 、水晶振動子の等価直列容量をC1、並列容量をC0とし、負荷容量CLをつけた場合の共振周波数をfL 、fLとfrの差をΔf とすると、

なる関係が成り立ちます。
負荷容量は、図7の例では、トランジスタ及びパターンの浮遊容量も含めれば、C01、C02及びC03 +Cv の直列容量と考えてよいでしょう。 すなわち負荷容量CL は、

で与えられます。発振回路の負荷容量が、CL1からCL2まで可変できるときの周波数可変幅"Pulling Range(P.R.)"は、

となります。
水晶振動子の等価直列容量C1及び、並列容量C0と、上記CL1、CL2が判っていれば、(5)式により可変幅の検討が出来ます。
負荷容量CL の近傍での素子感度"Pulling Sensitivity(S)"は、

となります。
図8は、共振周波数の負荷容量特性を表したもので、C1 = 16fF、C0 = 3.5pF、CL = 30pF、CL1 = 27pF、CL2 = 33pF を(3)(5)(6)式に代入した結果を示してあります。

図8 振動子の負荷容量特性

この現象を利用し、水晶振動子の製作偏差や発振回路の素子のバラツキを可変トリマーCv で調整し、発振回路の出力周波数を公称周波数に調整します。(6)式で、負荷容量を小さくすれば、素子感度は上がりますが、逆に安定度が下がります。さらに(7)式に示す様に、振動子の実効抵抗RL が大きくなり、発振しにくくなりますのでご注意下さい。

3. 振動子の励振レベルについて

振動子を安定して発振させるためには、ある程度、電力を加えなければなりません。
図9は、励振レベルによる周波数変化を示した図で、電力が大きくなれば、周波数の変化量も大きくなります。
また、振動子に50mW程度の電力を加えると破壊に至りますので、通常発振回で使用される場合は、0.1mW 以下(最大で0.5mW 以下)をお推めします。

図9 励振レベル特性

4. 回路パターン設計の際の注意点

発振段から水晶振動子までの発振ループの浮遊容量を極力小さくするため、パターン長は可能な限り短かく設計して下さい。
他の部品及び配線パターンを発振ループにクロスする場合には、浮遊容量の増加を極力抑えて下さい。